「頭がいい」とか「バカ」とかじゃなくて「前提条件の正しい把握」が判断の質を決める

「頭がいい」とか「バカ」とかじゃなくて「前提条件の正しい把握」が判断の質を決める

 世の中には「頭がいい人」「バカな人」といったレッテル貼りがよくされるが、実際のところ、人の判断の良し悪しを決めるのは単純な知能の高さではないと思っている。現に「頭がいい」とされている人も、おかしな判断を普通にするということは誰もがこれまでに見てきたことじゃないだろうか?(特にビジネスシーンにおいては顕著な気がする)

 それよりも筆者は、「前提条件を正しく把握できるか」そして「どんな思考パターンを持っているか」が、判断の質を大きく左右するんじゃないかと考えている。

 筆者の身近にこんな例がある。江戸川区のような浸水リスクの高い地域において、防災対策として、「野営グッズをしこたま買い込む」ということをしている人が親族にいる。これは一見すると「備えあれば憂いなし」に見えるが、少し冷静に考えれば防災体躯としてはクソだと言わざるを得ないと考えている。

 まず、「前提条件が正しいか?」という視点がこの人には欠けている、と思っている。

 江戸川区の大きな川に挟まれた地域に一戸建てを構えて住んでいる親族の最も警戒すべきリスクは浸水であり、大洪水になれば地面が水没することは区が出しているハザードマップでも明らかである。実際、台風シーズンには豪雨で避難勧告が出るほど水害は身近な災害である。

 もし、河川の氾濫で地面が水没したら、その状態でテントを張ることはできるのか?また、テントを張るとしたらどこに張るのだろうか?テントを張るよりも、むしろ必要なのは、高台や安全な避難所の確保ではないか?と、水害リスクに対して「野営グッズ」で対応することへの疑問は尽きない。

 このように、前提条件を正しく把握していないと、どれだけ思考しても誤った判断に至る。

 さらに言うと、地震や火災等のほかの災害においても、被災しても家が無事なら家に立てこもればいいので「野営グッズ」はいらないし、もし家が機能不全になればしこたま買い込んだ防災グッズを家から搬出することもできなくなるので、完全に悪手だとは思っている。(多分必要なのは「避難のための機動力と持久力」だと思っている)

思考パターンとその影響

 この親族を「ただのバカ」と判断するのは簡単に結論を出せそうだが、多分、それはそんなに意味がない。このケースから学んだ方がいい。

 おそらく、実際には、人の思考にはいくつかのパターンがあり、「頭がいい」とか「バカ」とかじゃなく、それぞれに思考の特徴があると筆者は考えている。おそらく大きく分けると以下のようなタイプがあり、どのタイプでも前提条件を間違って把握すると、間違った結論を出す、と思っている。

論理的思考タイプ(理屈重視)

  • 物事を分解し、因果関係を考えて合理的に判断する。

  • しかし、前提が間違っていると、その前提に基づいたロジックを積み上げた結果、間違った結論を導く。

    例: 「防災には備えが必要」→「備えるには物が必要」→「だから野営グッズを揃えよう」 → 前提がズレているため誤った結論に至る。

直感的思考タイプ(感覚重視)

  • 経験や感覚で素早く判断する。

  • ただし、過去の経験が偏っていたり、誤った情報を信じると判断を誤る。

    例:「避難所は混雑するはずだ」→「なら自力で生きる準備をしよう」→ しかし、都市部で水害が起きた場合、テントを張れる場所自体がない。

群衆思考タイプ(周囲の影響重視)

  • 「みんながやっているなら大丈夫」と考える。

  • 流行やインフルエンサーの影響を受けやすい。(ホモサピエンスっぽい)

    例:「防災グッズの特集で野営道具が推奨されていた」→「買わなきゃ!」→ 自分の状況を考えずに行動し、結果的に役に立たないものを揃えてしまう。

楽観的思考タイプ(ポジティブに考える)

  • 「なんとかなるだろう」と考え、あまり深く考えずに行動する。

  • 危機感が薄く、リスク評価を怠りがち。

    例:「災害が起きても大丈夫でしょ」→「最低限の準備でOK」→ 実際に災害が起こったとき、準備不足で困る。

 このように、どの思考タイプでも、前提が間違っていれば、間違った結論を導いてしまう。

 さらに言うと、人間の思考パターンを上記のタイプに完全に当てはめることもできないので、実際のところ、人間は上記のタイプのハイブリット+特に何も考えない無意識的な思考バイアスでもって考えていると思う。

正しい前提条件を把握するためのフレームワーク

 なので、前提条件を正しく把握することはめちゃくちゃ大事である。では、どうすればいいのか。AIに聞いてみると、「FACT+3Qモデルで考えるのがいい」らしい。それなりに納得感があったので、まとめてみる。

STEP 1: FACT(事実の確認)

 まず、思い込みや偏った情報ではなく、以下のステップで客観的な事実を整理する。

  1. 「これは本当に事実か?」
  2. 「データや証拠はあるか?」
  3. 「感覚や印象ではなく、確定した情報か?」

例:江戸川区の防災対策

  • 「江戸川区は災害時に野営グッズが必要だ」→ 本当か?
  • 客観的事実: 地盤が低く、大きな河川が近くにあるので、広範囲の浸水リスクがある。水害時に地面は水没し、テントを張れる場所がない可能性が高い。→ この時点で「野営グッズが必要」という前提が怪しくなる。

STEP 2: 3Q(前提条件を疑う3つの質問)

  1. Q1: 「もしこの前提が間違っていたら?」 → もし浸水しなかったら?避難所が使えたら? → 代替案を考える
  2. Q2: 「この判断をした後に、どんなリスクが生じるか?」 → 野営グッズを買ったせいでその保管のために家が狭くなる?グッズを買うので経済的余裕がなくなる? → 判断の副作用を考える
  3. Q3: 「この状況で本当に最適な選択肢か?」 → もし水害で家が使えなくなったら、高台の避難所やホテル確保の方が現実的では? → 他にもっと適した解決策がないかを考える

結論

 「頭がいい」とか「バカ」ではなく、正しい前提条件の把握と、思考パターンの理解が、判断の質を決める。

 そして、どんな思考タイプでも、前提がズレていれば誤った判断をしてしまう。 だからこそ、前提条件を常に疑うことで、判断の精度を上げることができる。

 大切なのは、判断の根拠となる前提を疑い、適切な視点を持ち続けることだと思う。